今まで生きてきて今日が1番、自分に厳しくした日だった。
今日を境に、「彼氏」は「元彼」になってしまった。
自分で選んだ道なのに、涙が止まらない。
今日だけはあの人がいくら助けようと朝まで笑わせてくれても、無理だった。あの人の助けがなければここまでこれなかったのに。私の過ごした3年間は、あの人の1年間よりやっぱり長かったから。
私が話しているあいだじゅう、彼は初めて私の前で泣いていた。彼は私の目をじっと見ていて、もう全部知ってたよ、みたいに優しい顔で、私が言い終わるのを、涙を拭うこともせずに静かに頷いて聞いてくれた。今まで何度となく、朝まで話した人なのに、今日だけは何も言わなかった。
話す前にさりげなく、自分ちの鍵をなくしたからちょっと貸してくれる?って言われた時、彼はやっぱり私のことを全部分かってくれてるんだなって気付いた。一ヶ月前、私と別れたくないと言ってくれて、朝何かを賭けるみたいな顔で渡してくれた新居の鍵。
そうやってさりげなくなかったことにしてくれるのが、彼らしくて泣けてくる。
一度大げんかをしたとき、ポストにチュッパチャプスをいれといてくれたっけ。あのときも、彼は優しく私の少し前にいてくれて、私をちゃんと見ていてくれて、私を救ってくれたのに、私は彼を裏切ってしまった。
どうして、私のためにここまで泣いてくれる人がいるのに、私はその人を信じてあげられなかったんだろう。全てを捨ててついていけなかったんだろう。
でもやっぱり、別れる以外に選択肢はなかったのかもしれない。保険をかけて、運命ならいつかのタイミングで結ばれるよって言ったけど、あのお寿司屋さんは誰ともいかないでいるからって言ったけど、私が最後に肩を借りて泣いてしまった時ごめんなって言った一言も、振り返らずに私から去って行った姿も、その可能性はほぼ無いってことを物語っているんだろう。
彼は私を追わないし、私はそれがやっぱり悲しかった。それが彼の良い所なんだとしても。
結局、振られたのは私なんだ。
星あかりは傷心な彼に言うんだろう。
そんな女別れて正解!次行こ次!って。
でもそんなのもうどうでもいいんだ。
どんな結果になるにせよ、彼や、私が流した涙が本物であるならそれで。
ひろきくんのアイス食べてる時の顔。
心から優しそうな笑顔で、子供みたいに可愛くて。
しばらく見なかったけど、あの笑顔に最初私は惚れたとこあるんだよなぁって。
たまにイライラしてたり、負けず嫌いになったりするけど、私を楽しませようとしてくれてる時のひろきくんの顔は、誰よりもステキ。夜の公園、修善寺の竹林、アイディアノート、手作りすごろく。寿司屋の空気、上野でお絵描き、一緒にお買い物、アート展、入院した時の不安そうな顔、でやっぱり夜の公園、ぜんぶ大好きな思い出。
別れてしまったって、思い出は消えないから、ちゃんと仕舞えば壊れない。
私が忘れようとしなければ、きっとずっと覚えてるはず。
大切なのは、これからの思い出は彼とつくらなくても私が幸せであれるかどうかを確信できるかどうか。
もう二度と、新しい思い出はできないことに、耐えられるかどうか。
そんな風に、お互いに気持ちがあるまま、お別れを言わせてくれたことに、感謝しなくちゃいけない。私なんかより、彼の方がよっぽど辛かったはずだから、私は辛いとか言ったらいけないなって思う。彼はただ、それでも私との将来を想像してくれて、私が戻ってくるのを待つことしか出来なかったんだから。
私が言わなければ、ずっといつまでも私たちは一緒にいたかもしれないんだから。
最後くらい全て正直に言えなくてごめんなさい。
今日だけはあの人にも少しだけ嘘をついて、彼のことだけを静かに考える時間にします。自分勝手で自分が嫌いになりそうだけど、2人が望んでくれた、私が幸せになると言うことのためには、この時間を作るズルさも、きっとみんな許してくれる気がする。なんて、甘えてばかりなんだろう。ごめんなさい。2人とも、ごめんなさい。
私は彼が、大好きでした。
彼のために泣いた日は数えきれないくらいあったし、そのどれも本当の本気でした。いつかもしかしたら、別れて良かったとか、幸せになってくれたらいいなとか、なんであんなに悲しかったんだろうとか思う日が来ても、私を成長させてくれたのはこの事があったからなんだよって、ちゃんと忘れずにいたいです。
今あなたが幸せなのは、全部乗り越えて来たからなんだよって。
友達には、あとの人は追われる恋だから、自惚れが恋に見えてるだけだ、って言われたけど、私には2人とも私を追っていてくれたように見えたよ。
だから、すっごく長く、自分が誰を大切にしたいのか悩んで、何回も彼らにくっついたり離れたりを繰り返して、ワガママな私はどちらも傷つけてしまったんだよ。
私にとってのこれからの一年はどうなるんだろう。
あの人を大切にしはじめてみて、かけがえの無い人が新しくできるんだろうか。その人を想っていくうちに、すっかり今のことを忘れているんだろうか。
それとも、やっぱり大切なのは彼だった、って気付くんだろうか。思い出の場所や物を、いつまでも忘れられなかったり、捨てられなかったりするんだろうか。